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【技術屋からみた】宅録の可能性と危険性

武漢肺炎がまさにパンデミックとなり、日本も例外なく非常に厳しい状況になっています。

クラスターの形成回避こそが現時点での最善策とされ、この声優業界の仕事現場は小~中規模のクラスター状況に該当してしまうわけです。

そこで最近は『宅録』による収録も検討されているそうです。

宅録。
自宅にて録音を行う収録のこと。

宅録に必要な機材や技術なんて言うのは今回触れるべき事ではないかと重いので省略しますが、それをプロの立場で考えた場合、どうなのかな?と言う点について記述して行きます。

まず最初に、ざっくりと要点を書いておきます。

・メリット
外出をせずに済むので、もし外出禁止令が出たとしてもリモートワークが可能である。
防音などがしっかりしていれば、仕事内容によってはクオリティ的に足りる。(そもそも、そう言う仕事スタイルは実際に存在する)

・デメリット
録音も演者自らやる事になるので、芝居・喋りに集中出来ない。
複数人数で掛け合う場合、演出家が介入しないと(つまり、抜き録りのような環境を作らないと)芝居感の統一が難しい。
録音環境が違うので複数の音源を使う場合、音を整える必要がある(その場合程度の一番低い音に揃える事になる)

今回は、技術的な面に焦点を置いて書こうと思います。
演出家的に言えば「やってやれなくはないんじゃない?」となるのですが……技術屋的には「ぶっちゃけ、ナレーション以外は厳しい」となります。

上記のメリット・デメリットを順に解説していきます。

まず最大のメリットである「リモートワーク」の良さ。
スタジオに来てもらうのはもちろん、スタッフ側のスケジュールと出演者のスケジュールを合わせるだけでも時間が絞られてくるわけです。
僕ですら、どんなに大人気声優様であろうと仕事が被れば調整をお願いしなければなりません。
それが回避出来るだけで、時間的余裕を持って挑む事が出来るのは最大のメリットでしょう。

そして実際にリモート収録をされている方には、地方在住の方も少なくありません……らしいです。
実際にお願いしたわけじゃないので、話に聞いているとって程度ですが。

防音環境もちょっと値は張るかもしれませんが、個人で購入するのは難しい事ではありません。
マイクも頑張れば……総額で言えば150万円くらいで十分な環境は作れます。知らんけど。
(金額について調べてないので。でもマイクだけでン十万レベルですけどね)

そして、当然ながら自分専用スタジオなので、自分の収録に対して最適化出来ます。
なので録音技術も自分の声を収録すると言う点に置いて特化し、自分の声を活かした収録も可能です。

……そう、『自分の特化した収録』なら宅録の方が強い場合もあります。

なので、一人喋りの仕事であれば宅録で充分仕事が出来ます。
各種ナレーションや朗読、オーディオブックなどは宅録が良いでしょう。
オーディオブックに関しては極めて長い時間の作品になりますので、圧倒的に宅録に向いていると思います。
セルフディレクション能力も問われますが……それは技術の話しじゃない!(笑)

んで、デメリットに関してですが……
後述しますが、録音で意識すべきところって結構あってそれも自分でしなきゃいけないわけです。
……けどまぁ、これは慣れの問題でもあります。
マイクセッティング等もキマってしまえば録音中にそこまで気にならないでしょう!
「そもそも、何に気にしたらえぇねん!」って人も居るでしょう。
……後述します!

セルフディレクション能力が問われると言いましたが、今はネット環境も充実してますしオンライン会議も簡単に出来るわけです。
そのあたりをクリア出来る環境であれば、演出家とスケジュールを合わせることになりますが、掛け合い含めて宅録でも可能にはなります。
案外遅延が減ってますからね♪
環境を整えればそう言う事も出来ます。
ただ、経験上回線以上にマシンスペックが必要ですし、録音と別のマシンを用意することを推奨します。

と、ここ二つまではデメリットに関しても解決出来ると言う方向で来ましたが、この次が問題です。

結局は色々な違いで、普通の収録とは違う『大きな音質の差』が生じます。
これはどうしたって出ます。
正直、同じスタジオでも音の差は出るもんです。(許容できる範囲かどうかって問題ですけどね)
だって、人間だもの(マイクとの距離感の差でも変わっちゃいますから)

で、音を揃えるのは一番音質の低いものに揃える事になります。
ある程度補正も出来ますが、手を加えると言う事は基本的に『劣化』するんです。
と言う事は、劣化させることで『下』に揃える事になります。
趣味レベルならともかく、この作業を経てクオリティを維持出来るか?と言うのが最大の問題になります。

宅録の可能性はジャンルに限ればありますし、これを機に増えるかもしれません。
ただ、作業量が実に増えます。
ナレーターが録音エンジニアを兼任するのに等しいですし(現場的に見えにくくなる作業ですが)、通常のギャラ+録音ギャラを出すべきでしょう。
あと、音を調整する側も負担がかなり増えますし、音を揃えるのは物凄い労力です。ちゃんとお金を出して貰わないと割に合わないレベルで。
そして、演出家がアレコレ指示をして直すにもスタジオワークに比べると充分と言えなくなりますし、人の仕事を見る機会も無くなりますので成長度合いが極めて下がるとも言えます。
やっぱ失敗を見てこそ価値がありますからね(笑)
それをどう直すのかを見れると言うのがアフレコ現場の役者さんとしての財産でしょう。
なので、今回の武漢肺炎が落ち着いたら、やっぱりアフレコ文化は元に戻って欲しいですね。

さて、技術的なヒントを最後に書いて終わりにしましょう!
アテレコではなく、ナレーション向けと思って下さい。

まず、どのマイクを使うかですが……指向性が狭い方が周りの音を拾わなくなりますので、環境ノイズが減ります。
ただその分マイクの軸をどこに当てるかで質が変わってしまうので、マイキング(って一般的な表現なのだろうか?)が重要になってきます。
あと、裏面は音を拾わないと言うわけではありません。
けどそこを防ぎ過ぎると指向性が弱くなる弊害もありますので……機材はプロにご相談下さい(苦笑)
結局機材の触ってる数が違いますからね。感覚的な物は専業である事の強みになります。

マイキングに関しては過去の記事『人間の身体も楽器です』で細かく触れていますので、そちらをご参照ください。

あと機材で言えば、オーディオインターフェイスに左右されます。
ここはマイクと同じくらいお金をケチっちゃいけません。
音質のボトルネックになります。
課題入力にならないならローカットもしなくて良いと思います。
編集時にローを切れば良いので。

録音時は、コンプレッサーなどに頼らないで良い範囲で録音をして、あとで音圧を調整して下さい。
その為にきちんとした解像度(48kHz24Bit以上で。これが下限と思って下さい)で録音しましょう。
前述した通り、加工するのは基本劣化させる行為です。
後で加工するの前提でしっかりとした音像をキープしましょう。

音質の加工はプロに任せておきましょう。
加工は鮮度を落とす行為。
増して他の人と音を混ぜなきゃいけないならEQは下手にかけずにおいて下さい。
ただ、NGはきちんとカットしておいて下さい。
カットする際には『ブレス』に注意して下さいね。
初心者にありがちなのは、ブレスを聞き逃して無音と思ってカットしたら、ブレスの途中だったと言う事態です。
でも、NGくらいはさすがにカットして貰わないと、その後の作業の人の手間が増えるので……録音に立ち会っていない音源のNGカットって大変なんですよ……

以上の事を注意して頂ければ、仕事によっては宅録でもおこなえる仕事が今後は増えるかもしれませんね♪

僕個人としては、それらを現場で済ませる事が出来るのでスタジオ収録して頂きたいものですが……時世がね(^^;

みんなで工夫をしながらエンタメを作って行きましょう!!

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